アスール・ルーノ

9


 ルーナがやるべきこと。
 それは、エスメラルダを癒すこと。
 エスメラルダに対して、ヒーラーとしてベストを尽くしたいと、ルーナは強く思う。
 今は向き合うしかない。患者と真に向き合って、元気な状態にしてあげるのがヒーラーとしての使命だとルーナは思っている。

 今日も、ルーナはエスメラルダの元へと向かった。
 今回のヒーリングには、アーキルは同行しなかった。治療経過を皇帝に説明に行かなければならなくなったからだ。そして、診察もルーナのヒーリング以外は施すことがないからだ。
 今回は任されているから、かなり緊張している。

 エスメラルダが、かつてアーキルと恋をしていた頃と同じような、生命力溢れるようになればと、願わずにはいられない。
 ルーナは、また、アーキルとエスメラルダが、かつてのような感情を交換し合うことが出来るようになればと、祈るような気持ちでいた、

「ルーナです。エスメラルダ様、お話のお相手をしに参りました」

 ルーナは部屋に招き入れて貰うと、早速、透明感のある声で、エスメラルダに声をかけた。
 すると、エスメラルダは生気のないグリーンの瞳をルーナに向ける。今日は、いつもよりも長く話をしてみようと思った。

「こんにちは。月の民のルーナです。アーキル先生の助手をしています。アーキル先生のお話でもしましょうか」

 ルーナはエスメラルダの手を握り、癒しの力を送りながら、反応を見る、やはり、アーキルの名前を出すと反応が見られる。ルーナはアーキルの話をすることにした。

「アーキル先生といえば、いい加減で、いつも寝坊ばかりで、診療開始の準備をしてなくて、髪がみょんみょん立っています。だけど、医術の腕は確かで、町の人たちは皆、笑顔で先生を信頼しています。アーキル先生は町一番の医師だと評判です。ただし、いい加減だって、皆、笑っていますけれど」

 ルーナはわざと怒ったように言い、感情に波をつけて話をする。こうすれば効果があると、おばばから聞いたことがあったからだ。すると、エスメラルダは一瞬、にっこりと穏やかに微笑んだ。瞳は宝石よりも美しく輝いている。

 なんて魅力的な微笑みなのだろうかと、ルーナは思わず見惚れてしまう。あのアーキルが、そしてシュタインが夢中になったのが解るような気がした。
 それほどまでに優しい美しさに満ちている。

「……す……て……き」

 かなりか細い声であったが、エスメラルダは確かに声を発した。
 柔らかく優しい綺麗な声。
 魂が揺さぶられるような声に、ルーナも息を呑んだ。

 嬉しい驚きであり、胸がいっぱいになるぐらいに感動する。
 エスメラルダは、ルーナが一番反応しないと感じた患者であったから、嬉しさはひとしおだ。感動が滲む。

 振り返ると、サルマが驚いて涙ぐんでいる。そしてその横には、いつの間にかシュタインがいた。
 シュタインもまた驚いて目を見張っている。だが、それは、嬉しい驚きだということが、ルーナには分かった。
 このひとたちは、本当にエスメラルダを愛している。ただ、生きているだけで良いと思っているのだ。それはアーキルも同じなのだろう。

 その想いを感じ取り、ルーナは、エスメラルダの周りにいる、本当に大切に思っている人々のためにも、がんばらなければならないと、強く思った。
 そして、未だ、エスメラルダに想いを遺している、尊敬するアーキルのためにも、エスメラルダを元に戻したかった。

「月の子、お前は大したヒーラーだな……」

 いつも無表情なシュタインは珍しく穏やかで優しい笑みを浮かべた。その笑みは温もりすら感じられる、とても魅力的なものだった。

「有り難うございます、シュタイン博士。だけどまだまだです」

「アーキルの話も面白かった」

 雪が溶けるように優しく笑うシュタインは、とても穏やかな魅力を持った温かい人物だと思った。透明感のある声、麗しい容姿に、儚げで穏やかな表情は、多くの女性をとりこにすることさろう。

「エスメラルダ様、また色々とお話をしますね。どのお話が一番お好きですか? 私の? それとも、ソーレさん? ヴィーナスさん? アーキル先生?」

 やはり、アーキルで反応する。
 魂の深いところで、アーキルを愛した記憶は刻まれているのだろう。愛する心は消えない。その事実に、ルーナは泣きそうになるぐらいに感動してしまった。

 いつかこのような愛が育めたら。そんな夢すら思ってしまう。

 ルーナは柔らかな笑みを浮かべて、しっかりとエスメラルダの手を握りしめて、頷く。

「アーキル先生のネタは沢山ありますよ? にゃんこのご飯を取ったこととか、色々お話ししますね」

 ルーナの言葉に、期待するかのように、エスメラルダの瞳が楽しそうに輝いた。

「では、エスメラルダ様、大きな癒しの力を注ぎます。エスメラルダ様が、いつまでも笑顔でいられますように。月の女神様のご加護がございますように……」

 ルーナは柔らかな声で言いながら、エスメラルダに更に強い癒しの力を注いだ。すると少しではあるが、エスメラルダの顔色が良くなり、生体反応も僅かではあるが認められた。

 少しずつ良くなっている。
 ルーナはそれが嬉しくて、心の底から笑顔になった。
 僅かでも生きていると感じられる反応が得られたことが、ヒーラーとして、ルーナは何よりも嬉しかった。

「では、エスメラルダ様、また参ります。今度はにゃんこのご飯を取った話をしますね」

 ルーナは明るく言うと、静かに笑顔で、エスメラルダから離れる。

「サルマさん、シュタイン博士、では私はこれで。また、明日参ります」

 ルーナは頭を深々と下げて挨拶をした後、エスメラルダの居室を出た。
 良い報告が、アーキルたちに行える。それがルーナには一番嬉しいことだった。

「月の子、待ってくれ」

 声を掛けられて、ルーナが振り返ると、シュタインが部屋から大急ぎで出てきた。

「シュタイン博士」

「ほんの少しで良いから話が出来ないか?」

 シュタインが声をまともにかけてくれるのは初めてで、ルーナは嬉しくて笑顔になる。
 こうして、とっつきにくい雰囲気を醸し出していたシュタインとまともに話す機会が得られたのが、ルーナには好ましかった。

「シュタイン博士こそ、エスメラルダ様にお話をするのはよろしいのですか?」

「サルマに頼んであるから、大丈夫だ。だが、すぐに戻らなければならないから、十分ぐらいしかないが、構わないか?」

「はい。大丈夫です」

 シュタインがどのような人となりなのかは、ルーナは興味があった。
 エスメラルダのヒーラーとして、知っておく必要もあると思う。

「中庭に行って話をしよう」

「はい」

 ふたりは肩を並べて、廻廊をゆっくりと歩いて行く。回廊には優しい光が注いでいて、とても穏やかな気持ちになれた。

「月の子、お前のヒーラーとしての実力は認める。大したものだと思う」

「有り難うございます。だけど、私は並みのヒーラーです。シュタイン博士の買いかぶりです」

 ルーナは素直に自分の実力を告げる。
 本当にそうなのだからしょうがない。だが、シュタインはルーナの言葉が納得いかないとばかりに、完璧なまでに美しすぎる眉を顰めた。

「そんなことはない。今まで誰も癒せなかったエスメラルダ様を癒し、反応させたのだから」

「少しだけです。アーキル先生とおばば様の教えの通りにしただけです。お二人に師事しなければ、エスメラルダ様を癒すことも出来なかったですし、ここに来ることはありませんでした」

 決して卑屈になっているわけではない。事実だからしょうがないと、ルーナは思っていた。

「お前はアーキルの弟子の上に、おばば様まで師事をしていたのか……」

 シュタインは噛み締めるように言うと、自分で納得したように頷いた。

「ふたりともお前の実力がよく解っているからだろうな。あのアーキルが弟子を取るとは思えないし。ましてやおばば様は、いくら月の民でも、見込みのない者には教えないと聞いている」

 シュタインにここまで賞賛されても、ルーナは何も言えない。本当に、実力がないことは自分が一番良く解っているから。

「おばば様は私の親代わりなんです。私は生まれた時に母を亡くし、天涯孤独だったから……」

「おばば様の孫格か。ならば納得だ」

 シュタインはフッと微笑んだ後、空を見上げた。

「シュタイン博士も、医療からくりで凄い方だとお聞きしました」

「アーキルか?」

「そうです」

 素直に答えれば、一瞬、怒るかと思った。今のふたりは犬猿の仲にしか見えないからだ。だが、シュタインは柔らかく懐かしそうに微笑んだ。

「かつてふたりで、命を救うためのからくりを研究していたからな……」

 シュタインの美しい瞳はノスタルジックに輝き、ルーナの胸は切なく痛む。その瞳は、懐かしく輝かしい日々を回想する老兵にも似ていて、まともに見ると泣きそうになった。

「今も、医療からくりを研究されていますか?」

 ルーナは、シュタインの横顔を見ながら、さり気なく核心を突いた。
 一瞬、シュタインの瞳が神経質に大きく開く。明らかな動揺が感じられた。シュタインはごまかすように、視線を青空に向ける。

「いいや……。お前はどうしてそう思う?」

「なんとなくです。ただ」

 ルーナもまた、シュタインと同じように青空に視線を向けた。
 暫く沈黙が続く。

「医療からくりのほかに、楽しいからくりがあったら、是非、教えてください。私、昔から、からくり人形や、からくりのメリーゴーランドのおもちゃが大好きなんですよ」

 ルーナは、シュタインの気持ちを柔らかくするように、わざと、子供のころに好きだった、からくりおもちゃの話をする。

「特に好きだったのは、お月さまの形が、三日月から満月に変わったり、太陽と重なったりする、からくりおもちゃが大好きでした」

「名前通り、月のおもちゃが好きなのか、月の子。そのからくりは俺も懐かしい。俺も好きだったな、そのからくりが」
 一瞬、強張りを見せていたシュタインの表情だが、再び柔らかくなった。ルーナはホッと胸をなでおろしす。

「からくりが友達でした。からくりを使ってよく遊んでいました。月と太陽のからくりおもちゃは、おばば様が幼いころに誕生日の祝いにと贈ってくれました」

「そうか、それは俺の親父が作った最高傑作だ。今でも持っているか?」

「え? 本当にですか!? 今も大切にしています」

 まさか、あの素晴らしいからくりを作ったのが、シュタインの父親だとは思わなかった。これは嬉しい発見と、ルーナは思った。

「月の民の民謡が流れるんですよ。それが子守歌代わりでした」

 ルーナは宝物である、太陽と月のからくりを思い出しながら、つい笑みになった。

「----月の子、お前は天涯孤独と言ったな? さびしくはないのか?」

 シュタインは青空を見上げながら、まるで空の向こうの天国を眺めているような、そんな物悲しい表情を浮かべる。

 なんて切ない表情ばかりをする人なのだろうかと、ルーナは思った。その彼を唯一癒したのが、エスメラルダなのかもしれないと、ルーナは考える。

「私は天涯孤独ですが、寂しくはありません。母親は私が生まれたのと同時に亡くなりましたし、父親は知りません。だけど、ものごころをついたときには、おばば様が傍にいてくれましたし、今は、アーキル先生がいます。そして、宝物のからくりもあるし、今回、ソーレさんや、シュタイン博士と知り合うことが出来ました。だから、私は孤独ではありません」

 ルーナは強くそう思う。ひとりであってひとりじゃない。血のつながった家族がいる、いないにかかわらず、人間は誰でもそうなのだろうと、ルーナはしみじみと思った。

「----アーキルがお前を傍に置く理由が解ったような気がする。おばば様がお前を慈しんでいる理由が解ったような気がする……」

 シュタインは、今までで一番晴れやかで透明感のある笑みを浮かべ、ルーナを優しく見つめてくれた。
本当に優しいひとだ。瞳の輝きや笑顔を見れば、一目で分かる。

 ルーナは、シュタインの印象が一気に変わるのを感じた。その印象の落差に、苦笑いすら浮かべてしまいそうになる。それほどシュタインは魅惑的だった。

「月の子、色々とお前と話すことが出来て、楽しかった。また、色々と話をさせてくれ」

「勿論です。シュタイン博士」

 ルーナもまた、この純粋なひとと話をしたいと思う。そうすることで、自分の心にあるピュアな部分を確認することが出来るのではないかと、思ったからだ。

「おい、アルベルト、ルーナに何をしている」

 低く鋭い声がルーナたちの背中に突き刺さり、ふたりは思わず振り返る。
 そこには、アーキルとソーレが立っていた。ソーレはいつもと同じ態度で、いつもと同じ表情だった。
 だが、アーキルは、あからさまに怒りを露にした表情だった。

「アーキル先生、ソーレさん!」

 どうしてこんなにも怒るのだろうかと、ルーナは思いながら、ふたりをいつもと同じ表情で見上げる。

「ルーナ、何かされなかったか?」

 アーキルは本当にあからさまに呟く。不機嫌が突き抜けたような表情だった。

「シュタイン博士とは、ただお話をしていただけですよ。エスメラルダ様が、笑われたんです」

「エスメラルダが、笑っただと!?」

 驚きと興奮のあまりに、アーキルは言葉遣いを崩す。それは、アーキルとエスメラルダが恋に関しては対等であったと示していた。それがどこか微笑ましいと、ルーナは思う。

「エスメラルダ様が笑ったのか。まさか、明らかな反応を示されるとはな」

 ソーレも信じられないとばかりに呟く。
 ソーレもアーキルも、あれ以上の奇蹟を考えてはいなかったようだった。

「“すてき”とだけだが、言葉を発せられた」

 シュタインはふたりに生真面目な視線を送る。
 アーキルはかなり興奮したように、ルーナの細い肩を掴んだ。

「そ、それで、他には!?」

 肩を何度も揺らされて、ルーナは驚いてしまい、つい怯えるように大きな瞳を更に見開いてしまう。

「あ、あの、それだけで……」

 アーキルが興奮ぎみな理由は分からないではないが、ルーナはどうして良いかが解らずに、半ば戸惑ってしまった。

「それだけか!?」

 アーキルは更にルーナの肩を揺する。ルーナはくらくらした。

「アーキル!」


 ソーレが、アーキルを嗜めるように言い、腕で制止する。アーキルはハッと息を呑んで、自分を取り戻した。

「……ルーナ、すまなかったな」

 アーキルはばつの悪そうな表情になると、うなだれながら、ルーナから手を離した。

「しょうがありません。今回は、エスメラルダ様のことだったんですから」

 アーキルがいつもの反応が出来ないのを切なく思いながら、ルーナは笑顔で頷いた。ルーナは真っ直ぐアーキルを見つめる。

「アーキル先生、エスメラルダさんは、アーキル先生の話題で反応されたんですよ」

「俺の?」

 アーキルは目を見開き、恋する青年のような、はにかんだ魅力的な表情になる。見つめているだけで、こちらが幸せになるような表情だ。

「アーキル先生が、町の患者さんに慕われていること。いい加減だけれど、腕は確かな医師だと思われていることを、お話ししました。すると、本当に楽しそうに笑われたんですよ。エスメラルダ様は」

「俺のことで……」

 アーキルは感窮まるような表情を浮かべる。アーキルが、今でもエスメラルダのことを心から愛しているのだということを、ルーナは強く感じずにはいられない。
 アーキルやシュタインを見ていると、ひとを愛することは、なんて素敵なことなのだろうと思う。ルーナには、男と女が愛し合うとはどのような感情を生むのか、まだ具体的には解らなかったが、それが、奇蹟すらも起こす感情なのだということは理解した。

 ルーナは嬉しくて、ついソーレを見つめる。
 ソーレは一瞬ルーナに目を合わせたが、直ぐに冷たい表情で視線を逸らす。すぐにいつもの表情に戻ったが、どうして、視線を逸らされたのか。
 ルーナには解らなかった。

「俺は端から見ていたが、感動的だった。俺は、正直、エスメラルダ様を微笑ませることなど出来るヒーラーはいないと思っていたが、それは間違いだった」

 シュタインは静かにだがどこか晴れやかな表情で呟いた。

「月の子のヒーラーとしての素晴らしさを話した。それだけだ」

 シュタインは再び固い表情になる。

「では、俺はこれで。エスメラルダ様のところに戻る」

 そこまで言って、シュタインは三人を羨ましそうに見つめる。

「お前たちが羨ましいな。アーキル、お前は良い弟子を持ったな」

 シュタインは静かに呟くと、三人に背中を向けてエスメラルダの部屋に戻って行く。その背中はどこか寂しそうにも見えた。

「相変わらず、つかみどころのない男だな」

 ソーレは苦笑いすら浮かべている。

「だけど純粋なひとだと思いますよ。少年のように」

 ルーナもまた、笑顔でその背中を見送りながら言う。

「まあ、そうだけれどな」

 ソーレもそれは納得とばかりに頷く。だが、アーキルは複雑な表情を浮かべながら、どんよりとしていた。

「ルーナ、先程はすまなかったな。つい動揺しちまった」

「アーキル先生もとても純粋な想いを持っていらっしゃるんだと思いました。アーキル先生のこのような面を見られて、楽しいです。患者さんへの話の種に良いかも」

「いらんことを話すなよ」

 アーキルはうんざりとするように言いながら、完敗とばかりに溜め息を吐く。

「患者さんたちも楽しみますよ。ロマンティックのロの字もないようなアーキル先生のロマンスに」

 ルーナがわざとからかうように言うと、アーキルはムッとした表情になる。

「大人をからかうな」

「はい、はい」

 ルーナは面白くて、つい笑顔でからかってしまった。

「しかし、良かったな。ほんの僅かだが、光が見えた。皇帝陛下もお喜びになるかもしれない」

 ソーレの言葉に、アーキルは、複雑な表情を浮かべる。

「ある意味はな……」

「まあ、ある意味はだけどな……」

 ふたりは何か深い事情があるのか、喜ばしい話題のはずなのに、どこか表情を曇らせた。その事情は伺い知らなかった。

「さてと、明日からの治療方針を考えなければな、ルーナ」

「そうですね。アーキル先生。だけど、先生の失敗話をしておけば、エスメラルダ様は喜ばれると思いますが」

「お前は鬼っ子か」

 アーキルが拗ねたように言うものだから、ルーナはわざとつんとした。

「そうですよ。鬼っ子ルーナですから」

 ルーナは、アーキルが楽しそうにしてくれることが、何よりも嬉しい。ずっと影があることが気になっていたのだ。
 明るくいい加減にしていても、どこか影のあるひとだと、ルーナは本能で感じていた。その原因が今は解る、愛するひとを失った哀しみだ。その重さを、ルーナはまだ頭では理解できなかったが、本能では理解できるような気がした。

 アーキルの表情が医師らしい厳しいものになる。

「明日は俺も治療には同行するからな。その時に、エスメラルダ様の様子を診て、更なる手立てを考える」

「はい。お願いします」

「ルーナ、俺はソーレと話があるからな。お前は部屋に戻って構わないぞ」

「はい。有り難うございます」

 ルーナは良い報告が出来て良かったと心から思いながら、笑顔になる。

「では戻ります」

 アーキルとソーレに頭を下げた後、自室に向かう。

「ああ。戻ってゆっくり休め、ルーナ」

「月の子、ゆっくりしろよ。明日から、また宜しくな」

「はい、アーキル先生、ソーレさん、お先に失礼します」

 エスメラルダに新たな反応が得られたなんて、こんなにも嬉しいことはない。ヒーラーとして爽快で、充実感あふれた幸せな気分だ。

 明日も頑張れる。とても素敵な気分だった。

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