時空のめぐりあい

0〜プロムナード〜



 子供のころから、愛に生きると決めていた。



 初めて彼女を見たとき、どこか懐かしく感じた。

 雷に打たれて緊急搬送された、高校生。

 鼻の奥がむず痒くなるような薬品の匂いがし、ストレッチャーの軋む音が響く中、彼女は総ての色を無くしてただ無心に目を閉じていた。その顔は、俺の人生を通り過ぎていったどの女よりも綺麗だった。

 その顔を見ているだけで、まるで以前から識っていてずっとかけがえのない相手だったような不思議な気概感がある。彼女とは初対面であるはずなのに、その存在が、こころの深い部分に語りかけてくるような気がした。

 視線を逸らせることが出来なくて、俺はずっと彼女だけを見つめていた。

 外は雨が降り、俺たちがいる空間は白で彩られている。清らかなモノクロームの世界だ。

 白いセーラー服を着た彼女と、白衣を着た俺、そして同じように白衣を着ている看護士や研修医たち。壁は清潔感に溢れた白。ここが救急病院であることを思い知らされる。

 何もかも白い空間にいる俺たちは、現実とは違った空間に迷い込んでいるかのようだ。

 緊急治療室に滑り込み、診察台に寝かされた彼女を、俺は医師として診察をした。

「猫を助けて、雷に打たれるなんて、可愛そうに……。うちの娘と同じぐらいの年なのに」

 ベテラン看護士の声を聞きながら、俺は彼女の容体を確認していく。細くて温もりが感じられない身体はとても心許なく、医療によってその命がつなげられるのか、予断を許さない状況だった。

 どうしても、助けたい----その想いが魂の奥底から強く湧きおこった。

 バイタルサインを確認しながら診察をし、医師として彼女にしてあげられることは、最早、この掌に残っていないのだろうか。

 俺は諦めたくはなかった。ただ黙々と自分が出来る最高の処置を彼女にする。

 どうしても助かって欲しかった。その命を抱きしめようとしても、もうどんなに手を伸ばしても、俺にはどうすることも出来ない場所にあるのは、理性では解っている。それでも彼女の命を助けてやりたかった。

 ----ここまで待って、ようやく逢えたのだから、救いたい。もう一度、逢いたい。
 不意に透明な自分自身の声が、俺の意識を支配する。
 だが、いくら記憶をたどっても、俺は何も思い出せなかった----

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