序章
私は蒼い月の夜に生まれた。 "蒼い月"とは、その月の、二度目の満月の日のこと。 月の民と呼ばれる、私たち一族には、"蒼い月"に関する伝承が残っている。 "蒼い月"の夜に生まれた子どもは、"月の子"と呼ばれ、強い力を持つと言われている。男の子は一族の勇敢なる戦士になるが、女の子は力が強過ぎるが故に、災いをもたらすことから、忌み嫌われる。そして、女の子は、過酷な運命を背負い切れずに、短い人生を終えるとも謂われている。 私は女の子だったから、当然、忌み嫌われてしまった。 伝説通りならば、私も強い力があるはずだが、あいにく、どの月の民の子供よりも、力は弱かった。 強い力なんてないのに、産まれた日が"蒼い月"の夜だったからと言うだけで、子どもの頃から必要以上にいじめられて、ひとりぼっちのことが多かった。 その上、親がいなかったこともいじめの原因だった。 私が生まれたと同時に、母は力尽きるように亡くなってしまった。父親もどこの誰かは、解らない。 私は両親の顔を知らないまま育った。物心がついた頃からずっと、私にはおばば様しかいなかった。 おばば様は、一族の長老で、医者で、そしてカードを操る預言者でもある。 私はおばば様に、医療のこと、未来を歩くための指針になるカードのこと、生きる知恵を教えてもらい、一族特有の力である、癒しの力を鍛えて貰った。だから今は、人並みの癒しの力を持っている。私はおばば様には感謝をしている。 普通の子供なら学べない様々なことを、おばばさまから教えて貰った。 私にとって、おばば様が、両親であり、先生であり、友達だった。だから寂しくなかった。 それでも寂しくて私が泣きそうな時は、おばば様は決まって同じ童話を聴かせてくれた。 『昔、昔、あるところに、癒しの力を持った大変美しい月の姫と、輝く黄金の太陽のように勇敢な騎士がいました。 蒼い月の夜、ふたりは出会いました。ふたりは一目で、お互いに運命の相手であることを悟り、恋に堕ちました。 しかし、騎士は、この世界の平和をもたらすために、戦いの旅に出なければなりませんでした。 騎士は言いました。「私は必ず戻ってまいります。それまで待って頂けませんか?」 月の姫は、騎士が運命の相手だと解っていたので、待つことにしたのです。 それは、長い、長い、時間でした。 何度も、何度も、蒼い月が訪れるほどの、長い時間でした。 そしてとうとう戦いに勝った太陽の騎士は、蒼い月の姫を迎えに行ったのです。 太陽の騎士を待ち続けた月の姫は、更に美しくなっており、太陽の騎士は感動しました。 輝く太陽の騎士と、蒼い月の姫が結ばれた瞬間、世界に平和が訪れたのです。 ふたりは、ひとつになり、いつまでも幸せに暮らしました』 何度も何度もその話を聞かされて、私は大きくなった。 蒼い月を見る度に思い出す、温かで幸せな童話。 蒼い月の夜に生まれた私は、童話に甘い夢を見ながら、今夜も眠りにつく。 |
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